折々に思うこと その30
大村湾に沿って、私の在住地である長与町から諫早に続く旧道があります。
道は狭いですが車窓からの景観は文句なしです。
先日も大村公園まで菖蒲を見に行った際に通りました。
4月頃と比べて山々の緑がすっかり濃くなり、たわわに葉をまとった樹木の枝がその重みで道路の方へ垂れ下がり、車の天井や側面に触れるほどです。
初夏の形容である「山したたる」。言い得て妙の表現ですね。
突然ですが、皆さんは麺類はお好きでしょうか?私は、うどん、ラーメン、そば、ソーメン、チャンポン等麺類には目がありません。
年をとる毎に、ますます好きになっていきます。
日曜日のお昼など「お昼、何がいい?」と聞かれると、「麺だったら何でもいいよ」と答えるのが常です。
私などお世話しやすいタイプでしょうか。
今回はラーメンにまつわる話を書きます。
食べる話で恐縮ですが。皆さんもラーメンはお好きでしょう。
長崎はもとより、福岡、熊本に行った際は、豚骨ラーメンをよく食べます。
ところで、自宅から少し離れた諫早に一軒おいしい店があるんです。
カウンター、テーブルを含めて席数は15ほど。
開店は11時ですが、11時10分にはだいたい全席埋まります。
作っているのは70歳過ぎと思われる強面(こわもて)の大将。
そして客を仕切っているのは、これも70歳過ぎと思われる女将。
2人で店を切り回しています。
2人とも痩せ型です。
大将は、無口でほとんど口を利きません。
女将も少々どすのきいた声で、来店した客を完全に仕切っています。
来店してどのテーブルやカウンターに座るかは全て女将が決めます。
座ってしばらくすると、目の前に女将がやって来て「注文をどうぞ」と一言。
勝手に空いている席に座ったり、座って「ラーメン大盛り」なんて注文したりすると、女将からびしっと叱られるのです。
「こちらから指示するまで座らないでください」とか「ちょっと待ってください。注文はこちらから伺います」とか。
初めてのお客さんはびくっとして固まり、黙ります。
10人ほどの注文を素早く紙に書き付けた女将は、大将に向かって注文の品をぺらぺらと読み上げます。
黙ってそれを聞いていた大将は、素早く目の前にどんぶりを並べ、鮮やかな手つきでラーメンをこさえていくのです。
よく注文を覚えられるもんだなと感心します。
豚骨スープはこってり系、麺は細麺です。
大将と女将は自分たちのこさえるラーメンに絶対の自信を持っているようです。
表情や醸し出す雰囲気からそれが伝わってきます。
このように、己の生業(なりわい)を極めている人をプロの職人と言うのでしょうか。
ところで、仕事や技術を極める過程に「守・破・離(しゅ・は・り)」という言葉があります。
「守」とは、師から教えられた基本をしっかりマスターする時期、「破」とは、身に付けた基本を土台としつつ、工夫して応用し、既存の型を破る時期。
「離」とは、独自の新しい世界を確立し、師の教えから離れて自己を確立する時期。
この大将は、「離」の段階の人だと私は見ました。
幼児の教育・保育にあたる保育士もそうあってほしいです。
いきなり「破」や「離」には行けません。
行こうとする人もいますが、まず無理です。
保育士としての基本をしっかりマスターし、それから工夫・応用の段階に進み、最後は自分ならではの保育を展開できる人。
「基本は外さないし、『らしさ』も十分に出ているね」と言われる保育士になってほしいです。
素直さ・学ぶ姿勢・向上心を持ち続けることができるかどうか。
そこにかかっていると思います。
がんばれ!若い保育士さん達。
その日、私と妻は11時5分前に店に行きましたが、既に1人のお客さんが入り口に立っていて私達は2番目でした。
注文は1番の人から。
ところが女将は1番の人には聞かず、私達に聞くのです。
「注文をどうぞ」。
なぜ一番目の人を無視するんだろうと思いました。
すると、最初にでき上がったラーメンは1番の人に。
『そうか、この人はまさに常連の方で、何を食べるか注文する必要はなかったんだ』と分かりました。
まさに「いつものやつ」だった訳です。
ここまでになるには何年ぐらいかかるんだろうと思いました。
私にはとても無理ですが、1回ぐらい言ってみたい気もします。
『女将さん。いつものやつ!』
今日はこのあたりで失礼します。