折々に思うこと その20

 私のコラムも今回で20回目を迎えることになりました。ひと月に1回というと余裕十分のようですが、締め切りが迫ってきますと結構プレッシャーを感じます。
でも、「読んでますよ!」という声を頂戴すると、また意欲が湧いてきます。
読んでくださる方の肩が凝らないものを、といつも念じておりますが。

 今回は、「つくば言語技術研究所」というところで、言葉のはたらきや効果につい研究をされている 三森(さんもり) ゆりか さんという方が紹介されている、ある本の一節を取り上げさせてください。
その本の著者は、日本サッカー協会の会長を務められた田嶋 幸三 さんという方で、タイトルは「『言語技術』が日本のサッカー界を変える」(光文社新書)というものです。
以下、三森 さんが注目されている部分を引用させていただきます。

 まず、本の内容を要約しますと、ヨーロッパのサッカーチームが強いのは、ゲームを論理的につくりあげているからで、日本のサッカー指導者の養成にも「言語技術」を必須の要件として取り入れている、という内容です。
田嶋氏は、日本サッカー界の若い指導者の育成に力を尽くしておられる方です。
 その中で、田嶋氏は「ゲーム・フリーズ」という、ドイツなどで行われている練習方法を紹介しています(フリーズとは凍る、とか固まるという意味)。
 ゲームの途中、だれかがパスミスをした時点で、全員フリーズして(動きを止めて)、なぜそこにパスを出したのかと、コーチがパスを出した選手A君に問います。
それに対して、A君は「自分がボールをそこに出せば、足の速いB君がそこに走り込み、ボールがつながっていくと思ったからです」と説明します。
 すると、コーチは、今度は、B君に「君はなぜそこ(A君がパスを出したところ)に走り込まなかったのか」と問います。
B君は、「相手チームのそちらへのガードが厳しく、かえって逆サイドの方がガードが甘いと考えたからです」と答えるというものです。
 つまり、A・B2人の選手の言葉のやりとりを、参加している選手全員が聴くということによって、A君がボールをパスしたねらいと、それに対するB君の動きを理解するという「言語のコミュニケーション」が行われ、チームの力量は一段と高くなると、田嶋氏は考えているわけです。
 選手達が何を考えてプレーしていたかを1つ1つ振り返って、当の選手がそれを言語化することによって、他の選手は当の選手の意図を理解し、その展開を成功させるために必要な、自分の行動を意識、実行することになります。
1つ1つのプレーが意味のある動きとなっていくというものです。
 これは、予め決まった役割を果たすというよりも、ボールの動きだけではなく、相手選手と自軍の選手の動きという、ゲーム全体の流れを読み取って、自分がどう動くかを瞬時に判断して、しかも自分がなぜそう動いたかを味方の選手に理解させながらゲームをつくっていくという、たいへん高度なゲーム展開を身につけさせることになります。
 その最初の一歩が「話さなければ分からない」、「伝えなければ通じない」、「話すからには相手が一発で納得できるような説明力を身に付けよ」と、『他者とのコミュニケーション』を位置づけているのです。

 これは、サッカーに限らず、他のスポーツでも、私達の仕事の場でも、その通りだと思います。
先月の12日(土)には、本園では「運動会」がありました。開始前に、職員さん方を集めて、私はこう言いました。
「いよいよ本番です。本園の運動会のいいところは、予定している種目が次々にテンポよく進んでいくところです。
種目と種目の間が間延びすることがほとんどありません。
でも種目の担当者として『あれはちゃんと準備してもらってるかな?』とふと不安になることがあるかもしれません。
そんな時は遠慮せず必ず言葉で伝え合い、確認をとりましょう」
 今年も、職員相互のみごとな連携プレーで、お昼までの実施ながらも、中身の濃い運動会ができました。
園長としてとても嬉しく思いました。
今日はこのあたりで失礼します。